ゼロカーボン(カーボンニュートラル)に向けてみなさんが主役となるための勉強会。
第2回は信州大学で環境社会学を研究されている茅野先生をお招きして、市民主体の取組みについてお話いただきました。
場所:白馬ノルウェービレッジ(オンライン併用)
参加者:60名(会場30名、オンライン30名)
開会・前回の振り返り・本日のテーマ
今回はProtect Our Winters (POW) Japanの高田翔太郎さんが進行を担当。まず初めに前回の内容を簡単に振り返りました。
ゼロカーボンと暮らしのつながりがなんとなくわかってきたところで、さらに深く理解するために個人の暮らしや地域でどんなことに取り組むことができるのか、信州大学の茅野先生と一緒に考えてみたいと思います。
茅野先生はたくさんの肩書をお持ちの学者さんですが、様々な社会・環境問題に取り組んでこられた経験をお持ちで、気候変動の問題だけでなく、その先のゼロカーボン社会をいかに市民主体で実現していくのか、具体的にイメージしていくお手伝いをしていただくにはこの人しかいない!ということでお声がけしたところ、快く引き受けていただきました。
茅野先生、よろしくお願いします!
地域から取り組むゼロカーボン、市民主体の視点から
信州大学人文学部准教授、自然エネルギー信州ネット理事、環境社会学会理事、長野県地球温暖化対策専門委員会委員。
まずは茅野先生の自己紹介。東京生まれながら、父親が長野県出身という縁があって、長野県内を中心に多くの立場でご活躍されています。
エネルギーに関する分野だけでなく、広大な国有林での自然林回復や治山ダムの撤去、木のおもちゃを活用した木育など、幅広い分野での研究や実践を経験されています。(それぞれの内容をしっかりお聞きしたいところです…)
長野県では、2011年に温暖化対策課を設置して取り組みを進めてきました。2019年12月、白馬村とほぼ同じタイミングで気候非常事態宣言、2020年4月に策定した気候危機突破方針で温室効果ガス排出量を2050年までに実質ゼロすること、最終エネルギー消費量7割減&再エネ3倍増を打ち出しました。
近日中に長野県ゼロカーボン戦略が正式に決定される予定です。
長野県ゼロカーボン戦略の内容を1枚にまとめたものです。
目がチカチカしますね…、それくらい緻密に、網羅的に練り上げられたものです。
長野県ゼロカーボン戦略では、運輸・家庭・業務・産業の各部門に分けて積算し、2010年を基準として最終エネルギー消費量を7割削減すること、再エネ生産量を3倍以上に拡大することで、2050年までに温室効果ガス排出量実質ゼロを達成する方針を定めています。
2030年までに温室効果ガス正味排出量を6割減という野心的・意欲的な目標を設定し、恵まれた自然環境を最大限に活かしてエネルギー自立地域を確立することで、目標を達成することを目指します。
温室効果ガスの削減について、運輸・家庭・産業・業務の部門ごとに算出しています。
排出量が最も多いのは運輸部門で、移動手段(モビリティ)の脱炭素が最大の課題となりますが、家庭部門も2番目に排出量が多く、全体の1/4程度を占めています。
健康診断に例えると、「長生きしたければ生活を見直す必要がありますね…」という状況です。
産業・業務部門については、大企業に排出量の報告と改善計画を求めている制度(事業活動温暖化対策計画書制度)が効果を挙げていますが、中小企業には浸透していないという状況です。
長野県ゼロカーボン戦略は本体だけでも約100ページあり、全て読むのは大変ですが(ぜひお読みください)、今日は2030年までの分野別目標と県の施策の概要をお伝えします。県の政策だけでは不十分で、むしろ市町村の地域課題として考える必要があることを赤字で示しました。
交通部門では、充電インフラ未設置区間ゼロや多様な移動手段の検討・構築が挙げられています。これは市町村では、コミュニティを持続可能な形で維持・再編していくかということに関わってきます。
建築部門では、全ての新築建築物をZEH*1・ZEB*2にすること。長野県では国の基準を上回る新築物件が8割を超えていて、47都道府県でトップを走っています。
既築建築物についても省エネ・創エネで快適に暮らせるようにするために、地域では何ができるでしょうか。工務店にとってはビジネスチャンスになる可能性もあります。
産業部門では、先程の大企業に浸透している事業活動温暖化対策計画書制度を中小企業にどう広めていくか、中小企業が脱炭素社会でどう生き残っていけるか考える必要があります。
再エネについては、屋根太陽光と小水力発電の普及を進めることとしていますが、無理なく設置を進める方法や、地域のメリットをどう作るかということを地域の中で考えていかなければなりません。
長野県ゼロカーボン戦略の別冊「信州ゼロカーボンBOOK – 県民編」の表紙には、2050年のありたい姿がイラストで描かれています。
既に変化が生じている事例をいくつか紹介します。
EVシフトが確実に進み、いつ変えるか、どう使いこなすかということを考える必要があります。
電気自動車のバッテリーを蓄電池として活用する「Vehicle to X」が進んでいくと思われます。
VPP(Virtual Power Plant、仮想発電所)という、小規模な発電所と蓄電池をつないで余剰を融通し合うことで電力需給の最適化を図る技術も生まれています。
ドイツで生まれた「sonnen」というサービスは、約6万世帯に導入され、6.3kWの太陽光発電と11kWhの蓄電池で75%のエネルギーを自給し、残りの25%分を他の会員と無料で融通し合うという状況が実現しています。天気が良いところで発電したものを、曇っている地域で使うなど、離れていても、離れているからこそ一緒に取り組めるという事例です。
このスライドが今日皆さんに一番お伝えしたい内容で、地域でできること・考えてほしいことを挙げています。
左上の建築物の省エネについては、既築住宅やオフィス等の断熱改修を推進するためのサポートが必要となります。移住者・高齢者・子育て世代など自治体の施策に関連づけて特定のターゲットに対して支援を手厚くする手法もあります。快適な住環境を整備することは、健康に暮らすための福祉的な考え方や人権の保障とも考えられ、ゼロカーボンと豊かな暮らしを両立できるものなのです。
右上の再エネについては、初期費用がかからずに太陽光パネルを設置できるPPAモデル(第三者が屋根を借りてパネルを設置して自家消費用の電力を供給・販売する形式)等により普及率を高めていくことや、ビルやマンションでEVを蓄電池として活用すること、地域新電力を立ち上げて地域経済循環を生み出していくことなどが考えられます。
左下のまちづくり部分は難易度が高いですが、地域でしかできないことです。都市計画や公共交通を抜本的に見直し、地域新電力で得た収益を公共交通で還元するなど、一つの事業だけではなく事業全体で収支を考えることが求められます。難しい課題はありますが、欧州などでは既にそういった取り組みが行われていて、住民の意思があれば不可能ではありません。
右下の産業部門では、農業用機械の電気化や、共同でビニールハウスを設置して木質資源から効率良く熱を供給すること、社用車のEVを共同購入すること、中小企業への伴走型サポートなどが考えられます。
長野県内では既に地域新電力がいくつか動いています。
再エネ3倍増を実現するためには、”つくること”と”つかうこと”をセットで進めていくことが大切です。
岩手県紫波町の公民連携によるオガールタウンでは、町内産木質バイオマスによる地域熱供給を実施し、エコ住宅を分譲の条件とするエコタウンを形成しています。
地域の価値が向上し、紫波中央駅付近は地価が上昇しています。
最後になりますが、温室効果ガスを2030年に6割減、2050年に実質ゼロにするという目標は、意欲的でハードルの高い目標です。
「やらなければならないことがたくさんある」ということは、「できることもたくさんある」ということです。
いわゆる従来の行政計画は、ワクワクしないものが多くありますが、現状と課題を丁寧に共有し、住民からのボトムアップとパートナーシップ(協働)を促し、プロジェクト型の取り組みを増やす(目標に向かって企てる)ことで、住民がワクワクしながら取り組むことが大切ではないでしょうか。
家庭から、集落から、市町村から、県から、国全体へと取り組みを広げていきましょう!
質疑応答
木質バイオマスについては、燃焼する際に二酸化炭素を排出するため、熱利用ができなければゼロカーボンには貢献しないものなのでしょうか。白馬村の針葉樹を広葉樹に変えていきたいと思いますが、針葉樹は需要がないと聞きます。また、木材を確保するために遠くから運んでいる事例も耳にしますが、その辺りはどうなのでしょうか。
木質資源が有効なエネルギー源であることは歴史が証明している。電気が普及する前はずっと木から熱を作り出して生活をしてきた。伐採した木の良い部分は建材や家具材にして高く取引きして端材を燃料に回すなど、持続可能に使い続けられる適切な仕組みを構築する必要があります。
「薪とチップとペレットはどれがいいのか」という質問も多く受けますが、価格と効率で選ぶなら薪、熱量が必要なところはチップ、高齢者や子育て家庭など安全を優先するならペレットなど用途や状況に応じて使い分けることが大切です。
以前、安曇野市で薪ストーブ普及率を目視で調査しましたが、約5%という結果でした。
木質資源を活用する場合、林業がしっかり行われないと絵に描いた餅になり、無理に進める持続不可能で負の遺産になってしまいます。
地域全体でどれくらいの規模で取り組むのが適切なのか検討が必要です。
松枯れ材をチップにして給湯や暖房等に使っている地域もありますし、自分で山から伐採してくれば安く入手することができます。休日などに伐採をするサークルができてきた地域もあります。いずれにしても、遠くに運ばずに地域の中で消費することが望ましいです。
家庭や事業所から食品残渣(ざんさ)が多く出ていますが、コンポストを普及させたら良いと思います。一人暮らしではハードルが高いと感じますが、共同で設置・運用することでみんなで取り組めるのではないでしょうか。
食品残渣からメタン発酵によりバイオガスを生成して発電している事例があります。エネルギーにできれば合理的ですが、発電のために残渣を遠くから持ってくる・集めるというのは本末転倒であるため、木質バイオマスと同じように適正な規模で運用することが大切です。
コンポストに限らず、みんなで取り組むことを増やしていくのはとても大切です。
遠く離れていても一緒にできることはあります。みんなでやると満足度、幸福感も高まるため、地域全体で楽しく活動を進めてほしいです。
グループワーク
オンライン・オフラインそれぞれで4〜5人で1組になり、「自分ができること、地域でできること」の視点を踏まえて、茅野先生のお話を聞いた感想を共有しました。
長野県は全体的に太陽光発電の適地が多いため合言葉として推奨していますが、地域や個別の物件を考えたときに必ずしも全ての屋根に設置するのが良いというものではありません。地域によっては、小水力や木質バイオマスを中心に取り組むことが望ましい場合もあります。
白馬村と同様に雪深い秋田県鹿角市では、水力・地熱・風力を中心に発電し、地域で必要とする3倍の電力を作ることができています。
太陽光に限らず、その土地にあった再エネを増やすことが重要となります。
オンライン参加者からは、以下のようなコメントをいただきました。
最後に、地域を跨いだ取り組みの提案をしたいと思います。
上高地でEVバスを走らせてはどうかという話がありますが、夏しかバスが走らず、冬の間はバスが有効活用できません。白馬は冬にバスがたくさん走っていると思うので、車両を融通し合うことができるのではないかと思います。
観光関係者がいたらぜひ検討してください。
お知らせ
#ZeroCarbonThursday
(Hakuba SDGs Lab 渡邉宏太)
勉強会で学んだことをみんなで実践していきたいと思いますが、せっかくなのでSNSのハッシュタグでみんなの取り組みを共有できればと思います。
木曜日に勉強会を開催していることや、ゼロカーボンを実現するためには森林吸収が必要ということで「木」曜日にちなんで「#ZeroCarbonThursday」というものを考えてみました。
木曜日以外も取り組んでほしいですし、天気や状況によって難しいこともあると思いますが、すぐにできそうなことをいくつか挙げてみました。
勉強会に参加することもWebサイト等で情報を得ることも大切なアクションです。
みんなで一歩を踏み出して、SNSでつながりと広がりをつくっていきましょう!
あと4年 未来を守れるのは今
(Protect Our Winters Japan 小松吾郎さん)
市民の声として、再エネ100%の気候・エネルギー政策を求めるキャンペーンで、G7が開催される直前の6月10日に、署名提出に合わせて全国一斉のスタンディングアクションが実施されます。
POWでは大町市、ニセコ町、野沢温泉村など各地のスノータウンで企画中で、白馬村でもぜひ実施したいと思っています。
簡単に企画・実施できますので、あと4年のサイトやPOWのサイトをご覧いただき、お気軽にご連絡ください!
勉強会の最後に、こういった形で参加者から連絡・報告など情報共有できる時間を設けるようにしますので、次回以降ぜひ皆さんもお気軽にお話しください。
次回は6月10日(木)に白馬村観光局と共催という形で、安居昭博さんを講師にお招きしてサーキュラーエコノミー(循環型経済)をテーマに開催します。
オンライン・オフラインでお気軽にご参加ください!
さらにその次、第4回は6月24日(木)にコンポストをテーマに一歩踏み込んでみなさんの実践につながる内容にしていきたいと思っています。
1日でも早くゼロカーボンを実現できるよう、みんなで学んでみんなで実践しましょう!
多くの方にご参加いただき、ありがとうございました!
この地域に移住してくる人には古民家が好きな方も多く、文化を守りながらゼロカーボンに取り組めれば良いと思った。
“?”がいっぱいだけど良い機会になったので、持ち帰って次回もまたみんなで話したい。