(確認用)第12回 地域と暮らしのゼロカーボン勉強会

ゼロカーボン(脱炭素)に向けて一人ひとりが主役となるための勉強会。

第12回は「フライブルグのSDGs 市民参加がここまでできているワケ 〜歴史的背景、国民・市民性、現状と課題、将来に向けて〜」と題し、環境都市と評される先進地ドイツのフライブルクの取り組みを現地に長年住まわれている前田成子さんからお話いただきました。

日時:2021年12月9日(木)18:30〜20:00
場所:白馬ノルウェービレッジ/オンライン(Zoom)
参加者:約40名(会場5名、オンライン35名)

開会&趣旨説明

フライブルクには「SCフライブルク」というサッカーチームがあり、ブンデスリーガでも上位を争っていますが、ホームスタジアムにはソーラーパネルが設置され、創られた電気は芝生の暖房などに使われているそうです。

フライブルクは、スイスとの国境近くにあり、面積は白馬村と同じくらいです。
近隣に原子力発電施設が複数あり、市民の環境意識にも影響を与えている面があるようです。

それでは早速前田さんからフライブルクのお話を伺いたいと思います。

環境都市フライブルクの取り組み

フライブルクは、1121年(日本では平安末期)に都市が形成され、約900年の歴史を有する商業主体の城下町です。
中世の街並みは一度戦争で破壊されましたが、再建された美しい街並みが特徴的です。

 

フランスとスイスの国境近くに位置し、ライン川の上流地域で、EUの経済促進地域にも指定されています。前田さんは現在、フリーランスとしてフライブルク市の総務部局と経済促進公社の業務を引き受けています。

ライン川の流域30km圏内に原発施設の建設計画が持ち上がり、国境を越えたフランスやスイスにも原発があり、反対運動が起きました。
フライブルクには1457年から総合大学があり、古くから「大学の街」として環境やジェンダーなど社会的な課題に対する新しい考え方や哲学が生まれる場所でした。
ワイン用葡萄の産地に建てられる計画だったこともあり、農民や一般の市民、大学教授や学生など様々な人が反対し、学術的・専門的な代替案を出し、計画が撤回されました。エネルギー政策を皮切りに、社会システム・環境が変わり始めるきっかけになりました。

フライブルク市は、人口約23万人で、面積は150k㎡、森林面積は40%、自然景観保護面積が50%を占める、自然豊かな街です。
周囲には緑豊かな林や森があ李、高台の城址からは自然と馴染む都市計画によりつくられてきた旧市街を眺めることができます。ゴシック後期のフライブルク大聖堂が残ったこともあり、第二次世界大戦後に古い街並みを残して作り直すこととなりました。

街の中心にはお城の堀として作られた小川が昔の形状のまま残されているところが多くあります。

トラムが通るところと通らないところの区分けとして作り直しているところもあります。
1960年代後半から車社会に移行しましたが、城壁に囲まれていた部分は乗用車規制区域となっています。行政や商工会議所や小売店組合、交通NGOなどが議論し、1年間試験的に規制したところ高評価で売り上げも増加し、継続することとなりました。

街の中心である大聖堂広場の前では、朝市が行われています。車社会への反省として、生活の質が考えられ、人の出会いが設計された広場の都市計画が練られています。
市場では、梱包されていないものを販売して、マイバッグで持ち帰っています。農家と小売店のゾーンがありますが、どちらも包装はしないことになっています。また、使い捨て容器の使用も禁止されています。
住民の意識がまとまっていくためにも、オープンカフェなど戸外で人に会って話すことは大切だと感じます。

シンボルとなる大聖堂は歴史を語るかけがえのない財産であり、街のどこからでも見えるような都市計画になっています。
環境政策、SDGs、持続可能性、しなやかなまちづくりといったことが議論されていますが、フライブルクは人の心を上手くケア(手当て)しながら啓発していくことが上手な街です。

子どもが自転車に乗っているのが街の理想的なミックスモビリティのあり方だと思います。交通はどうあるべきか、機能を損なわずに可動性を確保する必要があります。
フライブルクは公共交通で脱炭素など多くの賞を取っています。緑の党もフライブルクから誕生したもので、そういった人たちが街の計画づくりに関わっています。
環境・福祉・可動性を考え、コンパクトシティとモビリティを重んじた都市計画が自然発生的に作られ、例えばトラムの運転に合わせて信号が変わるなど、効率的な移動が考えられています。

街の中心部まで車で約5分の場所に住み、パーク&ライドでトラムで移動することもあります。自宅のテラスからはクラインガルテン(貸農園)が望めます。
クラインガルテンは、一度借りるとずっと借りられる仕組みになっていて、クラインガルテン法典により設備・花・野菜が3分の1ずつと決められています。
自然に触れながら庭づくりをするという価値観の共有が大切で、隣人ともよく声を掛け合い、友達ができ、それが励みになります。雪は昔より減りましたが、それなりに積もります。

街の中には現住されている文化遺産指定の家もあります。歴史を残すこともサステナビリティを実践する上で、都市計画として重要な位置付けになっています。

旧市街地では、赤い屋根による統一景観と、道を残すことが重視されています。
第二次世界大戦で旧市街地のほとんどが爆破されましたが、街の再建について、道を変えたり経済性を優先するか、古い町並みに再建するか、意見が二分しました。

乱開発されない土地利用計画、森林との共存が意識されたゾーニングコンセプトになっっています。コンパクトシティを掲げ、大聖堂、市役所、大学、オペラ座・コンサートホールなど街の重要な機能を集めています。
交流や出会いが生まれる大学は街の中でも重要な位置付けです。学生や高齢者など多様な人が街にどう集って、どう過ごすか。創造性を刺激することも大切にされ、開発費の2%はアートに使うことが都市計画で規定されています。

フライブルクでは、1990年代からサステナビリティについて議論され始め、12の政策項目が挙げられています。

温室効果ガスの排出について、1992年の時点で、交通による排出が4分の1、エネルギーによる排出が4分の3という調査結果があり、2012年までに1人あたり30%減、2030年までに半分、2050年に「気候に支障のないレベルまで削減」という長期的・複合的な目標を掲げています。
住民参加と情報公開を徹底しながら、環境と社会の課題を一緒に解決していくことが重要です。

まちづくりのフィロソフィーとして、「5本の指の緑の都市計画」を掲げ、開発をするエリアとしないエリアを明確にし、自然との共存を確保するとともに、車が無くても移動しやすいよう、トラムの終点に広大な無料駐車場(パーク&ライド)を設けています。
トラムの運行は1902年に始まり、1985年には環境定期券が発行され、地域に広がったのは1991年頃でした。

住宅地を見ると、戸建ては減り、近年は集合住宅が建設されています。教会を住宅に改築した物件もあります。

交通施策は「ショートウェイの街」をスローガンに掲げ、都市計画と交通計画の総合システムに必要なモビリティを効率よく確保し、子どもや高齢者が住宅地内で用事を済ませられるよう設計されています。
学園都市であるため税収は潤沢ではなく、トラムのボディを広告として収入を得ています。交通やエネルギーなど地域の自立性をどう確保するかということも課題です。
街を通り抜けられる「自転車ハイウェイ」の設置など、自転車優先で車との共存を実現しています。学生だけでなく様々な人が自転車に乗っています。

交通コンセプトの5つの柱として、公共交通の促進、自転車交通の促進、車公害の少ない住宅地域、自動車道路の整備、効率の良い駐車場システム(パーク&ライド)を掲げています。

住民参加を促すためには、住民への啓発が重要です。
市電促進の広報として、車は1台あたり1〜3人くらいしか乗りませんが、トラムには1編成で326人が乗れるというラッピング車両を走らせたり、「考え直そう乗りかえよう」というパーク&ライドのプロモーションを仕掛けたりしました。

環境定期券は、当初フライブルクのみで始まりましたが、レギオカルテとして3自治体統一の定期券になりました。週末は2人の大人と2人の子どもが乗れるようになっていて、事業所でも家族でも貸し借りが認められています。
車両の購入やレールの敷設など、事業費も大きく投資を回収しなければならないことから、考えられることはあれもこれもやってなんとか乗り換えさせようと取り組まれてきました。

エネルギー政策としては、資源保護、大気汚染物質排出抑制、地球温暖化防止、脱原発の4つの目標を掲げています。福島の事故も対岸の火事ではないという意識の人が多くいます。
対策としては、省エネ政策(断熱・省エネ建築・節電)、再エネ促進(太陽光・水力・風力・バイオマス・地熱)、新エネ・テクノロジー(熱電併給・コージェネレーション・近遠隔熱エネルギー)などが挙げられます。

省エネ建築については、20年ほど前に熱エネルギー消費率60kWh/㎡規定(有害放射物質30%減)の団地をつくるなど、個別ではなく地域として取り組んできました。
2011年以降に新たに建築される建物は、パッシブハウス(熱エネルギー消費率15kWh/㎡)規定となっています。
既存住宅の回収については、EU/ドイツ連邦/州などの補助金を活用したり、金融機関の支援を受けたりすることができます。

1960年代に公団が建てた16階建て139戸の福祉住宅について、屋上に25kWのソーラーパネル設置、外壁20cm・屋根40cmの断熱材、トリプルガラス化などにより70kWh/㎡から15kWh/㎡にパッシブ改修された事例もあります。

数年前に建設された新しい市役所もトリプルガラスでパッシブ(省エネ)・アクティブ(創エネ)の木造建築で、ソーラーエネルギー・地下水温の利用により熱を消費しない建物になっています。地域の木材を活用して建てられ、環境・社会福祉・経済など様々な視点で持続可能性に貢献している施設として、DGNB(ドイツ持続可能性建築協会)の認証を取得しています。
職員の福祉施策として市役所敷地内に保育園があり、女性職員アパートも建築されています。職員の自転車通勤を推奨するために自転車専用道路をショートウェイ(職住近接)が意識されています。また、冬はトラムを利用するため、停留所も設けられています。

1990年台からプラスエネルギー団地(パッシブハウス&ソーラーエネルギー)が建てられ、早くから市民の意識の啓発に貢献しています。

1990年代初めに住民参加型の地域電力創出プログラムとしてSCフライブルクのスタジアムに275,000kWh(2,200㎡)のソーラーパネルが設置されました。

ゴミから発生するメタンガスのコージェネシステムも1990年代に事業化され、1万人の住宅団地に電気と熱を供給していました。当初の計画どおり20年間稼働した後、都市ガスに移り変わりました。
それをきっかけに、各地域に熱電併給設備が300施設以上設置され、1993年に3%だった地産電力は2012年には50%になり、原発電力は60%から4%に減少し、脱原発に近づいています。

ドイツ全体では、2020年時点で27%が風力、10%が太陽、9%がバイオマスとなっていて、約半分が地産の再エネで構成されています。化石燃料と原発も含めたストロングミックスとなっていますが、割合は変化しつつあります。

新団地造成のタイミングが環境型エネルギー政策実現のチャンスです。
飾りとして後付けするのではなく、土地を整備する時点から雨水をどうするか、トラムをどうするか、車の利用を減らすために何をするのか、あらゆることが考えられます。

1970-80年代は郊外への流出もありましたが、1990年代以降は街に住むようになってきています。

人口増加に対応するために、1992年からフランス軍基地の跡地にボーバン団地の開発が始まりました。将来の住人を集めてボーバン・フォーラムを開催し、都市計画が策定されました。計画人口は5,000人で、低エネ住宅基準、木材廃材バイオマスによる地域暖房、ソーラー発電設備、市電導入、カーフリー地域など、計画的に開発が進められました。

子どもも乗用車も同権と謳うチャイルドプレイストリートでは、車は10km/h未満で乗降・荷下しのみとされていて、ガレージがなく緑地・遊び場が多く設けられています。

フライブルク近隣には再生可能エネルギーの自給による自立の村が複数あります。

ブライトナウ村は、人口約2,000人、標高1,000mで、木材チップによるヒーティングセンターを中心に地域エネルギーで村おこしをしています。
風力、バイオガス、水力、太陽光、コージェネなど多様な設備があります。

大学や自然公園協会(自治体)、手工業会議所、エネルギー連合(公社)、エネルギーエージェンシー(民間企業)、ライン川上流地域気候保全パートナーシップなどが、電力の100%、熱の50%を自給することや、村民参加率の高さなどを条件に自治体を募集するプロジェクトに参画し、エネルギー自給の取り組みのサポートを受けています。

フライアムト村では、農業・牧畜からエネルギー産業に業態転換し、森の幼稚園などで幼少期から自然に触れる機会を設け、自然の大切さを忘れさせない教育に取り組んでいます。

人材育成の面では、デュアルシステム(職業訓練学校)があり、週2日ほど学校で理論を学び、残りの3日は企業・親方の見習いとして経験を積みます。地域を支えるためのスキルを身につけるマイスター制度があり、外部のデベロッパーが根こそぎ担うのではなく、地域内の人材が参画・活躍する仕組みとなっています。
多様な人的歯車があっていいという意識が大切にされていて、夜間ギムナジウム(大学)もあり、途中から大学に行くこともできます。

【参考】ドイツの学校系統図(文部科学省)

最後に印象的な写真を紹介しますが、街の中でも水の流れや石など自然素材で遊ぶことができて、幅広い世代の多様な出会いがある、そんな空間が生まれるまちづくりがフライブルクの特徴だと思います。

質疑応答・意見交換

第二次世界大戦で街を再建するときに、意見が大きく分かれながらも、昔ながらの街並みを復元することになり、人が出会う都市計画、それによる景観形成と住民参加が素晴らしいと思いました。

クラインガルテンについては、参加意識がなくても、自然と参加させられている仕組みになっていて感心しました。人口が減少していないため、どこを住宅地にするか行政も土地利用について悩んでいて、住民はクラインガルテンが残るよう活動している状況です。

アートによって美しい街並みが保持されている面はありますか?

広場に現代アートの彫刻を置くこともありますが、どこかにアートを感じられるような街にすることで想像力が豊かになり、真善美のような価値観が育まれることにつながると思います。アートだけでなく、自然も同じように大切にされています。

とても魅力的な街であると感じました。
特に印象的だったのは、人との出会いが仕掛けられているまちづくりで、SDGsのゴールでは「住み続けられるまちづくり」に関係してくる部分だと思います。
都市部ではプライバシーが重視されて、隣に誰が住んでいるかも知らないように、人と会わないように設計されていると感じました。「一人で生きていける」と感じる人が増えると、結婚や育児が遠のくのではないでしょうか。
フライブルクで人口が減らない理由は何ですか?

移住した当時、公園のような空間に家があるとても綺麗な街だという印象を受けました。
出身地の鎌倉も歴史や緑が豊かな街だと思っていましたが、小売店が減って大型店が増えたり、街に人が少なくなり出会う場所が減っているように少ないような感じています。
ヨーロッパは個人主義ですが、個人が大事であるからこそ、どこかでつながっていなくてはならないという意識があると思います。創造性や人間関係を大切にしている人が多多く、お互いの家に呼び合ってお茶を楽しんだりもしています。
集合住宅のあり方は、都市計画の設計からも、建物の設計からも可能です。
街のつくり方も人口が減らない要因の一つであると思います。

日本では郊外にショッピングモールが建設されることが多くありますが、フライブルクでは規制されていますか?

大都市では大きなショッピングモールが建設される事例もありますが、フライブルクでは都市計画で店舗の種類(売るもの)が規制されています。例えば、切り花は旧市街、観葉植物はスーパーマーケットなど、車の利用にも関係してくる形になっています。郊外には家具店などもあります。
各都市の地域詳細計画では、店舗の規模や建築物の高さが制限されています。隣近所で都市計画局に働きかけることもできて、景観の統合性が守られています。

ケルンではディーゼル車の乗入規制があると聞きましたが、フライブルクにもありますか?

排ガス規制はあり、ラベルを貼ってある車だけが市街地を走ることができます。

姉妹都市になっている松山市との関係は?

パートナーシティ・ダイアローグとして、グリーンシティに関する講演会などを12の姉妹都市と開催しています。
フライブルクにはヨーロッパで最大のソーラー研究施設があり、エネルギーや都市計画、住宅建築、熱の使い方など様々な面で関連があり、松山市の学校へのソーラーパネルの設置や街の緑化などにも取り組みました。
アートもサステナビリティに関するものであり、美術館の交流など、互いの文化を共有するような活動もしてきました。1対1ではなく、世界への広がりを考える必要があると思います。

トラムの乗車料金はいくらですか?

2ユーロ40セントです。

教育システムにより職業転換が起こるのが素晴らしいと感じました。教育システムは再構築できるものですか?

教育システムについて、日本とドイツとどちらがいいかというのは難しい面があります。日本は知的レベルの土台を上げる形であり、ドイツは手工業者も社会の一員として、地域の職人を育てる形になっています。ボーバン団地には60の設計事務所が入り、地元の設備業者などが下請けに入り地域にお金が落ちます。
現場を理解すること、実務と学びの両立が大切だと思います。

市役所をパッシブ基準で建築するなど、コストがかかっても行政が取り組む意識なのはなぜですか?

逆になぜそうしないのでしょうか。エネルギーコストを考えると、建設費が高くてもパッシブ基準で建築するべきだと思います。そして、行政としての責任もあるし、姿勢を見せるべきだと思います。エネルギーモニターで状況を可視化して市民に公開しています。
市だけで取り組むのではなく、国や県の支援策を活用することも大切です。
住民に対する相談や支援の体制を整えることも重要です。
地域での創エネも含めて、今日明日すぐにというのは難しいが、これから取り組んでいきましょう!

お知らせ&閉会

次回は、2022年1月に開催予定です。
お気軽にご参加ください!