「おだやかな革命」上映会&トーク ー 地域にとっての”豊かさ”とは? 持続可能な村の未来を考える

国内各地域の自然エネルギーによる地域再生を取り上げ、これからの時代の豊かさを問うドキュメンタリー映画「おだやかな革命」を鑑賞し、映画のアドバイザーでノンフィクションライターの高橋真樹さんや地域で様々な活動をされているゲストの方々をお迎えして、パネルディスカッションを行いました。

  

「おだやかな革命」上映会&トーク
~地域にとっての“豊かさ”とは?~持続可能な村の未来を考える~日時:2019年12月1日(日) 14:30〜18:00
会場:白馬五竜エスカルプラザ
ゲスト:
高橋真樹氏(映画「おだやかな革命」アドバイザー)
田中麻乃氏(白馬村議会議員)
宇田川光平氏(小谷水車株式会社代表取締役)
傘木宏夫氏(NPO地域づくり工房代表)
参加料金:前売・予約800円、当日1,000円
(高校生以下 前売・予約400円、当日500円、小学生以下無料)
共同主催:
patagonia、Project Our Winters Japan、自然エネルギー信州ネット、Hakuba SDGsLab
※イベント後に交流会を開催しました。(参加費1,500円)

「おだやかな革命」上映会

あらすじ
原発事故後に福島県の酒蔵の当主が立ち上げた会津電力。放射能汚染によって居住制限区域となった飯館村で畜産農家が立ち上げた飯館電力。岐阜県郡上市の石徹白、集落の存続のために100世帯全戸が出資をした小水力事業。さらに、首都圏の消費者と地方の農家、食品加工業者が連携して進めている秋田県のにかほ市の市民風車。自主自立を目指し、森林資源を生かしたビジネスを立ち上げる岡山県西粟倉村の取り組み。都市生活者、地方への移住者、被災者、それぞれの「暮らしの選択」の先には、お金やモノだけでない、生きがい、喜びに満ちた暮らしの風景が広がっていた。成長・拡大を求め続けてきた現代社会が見失った、これからの時代の「豊かさ」を静かに問いかける物語です。

映画「おだやかな革命」

映画の感想
絶対見たいと思っていた映画だったので見ることができて嬉しかった。
地域で活動するにあたり、理解や協力を得ることの重要性を感じた。
白馬は外から入ってきて出て行くお金が多い。経済を村の中で回して行くことが大切だと思う。
しなやかな社会、ライフラインが止まってもなんとかなる暮らしなど、色々な素敵な言葉が出てきてメモをした。そういう生活をしていきたい。

トーク

モデレーター:
高橋真樹さん(映画「おだやかな革命」アドバイザー)

パネリスト:
傘木宏夫さん(NPO地域づくり工房代表)(大町市)
田中麻乃さん(白馬村議会議員)(白馬村)
宇田川光平さん(小谷水車株式会社代表取締役)(小谷村)

アドバイザー高橋真樹さんより

自然エネルギーや省エネのことについて全国を巡って取材をしている。
全国各地には会津電力のような「ご当地エネルギー」と言われる会社がたくさんあり、多くが2011年の原発事故をきっかけに「自分たちでも何かしたい」という思いをきっかけに生まれたものであるが、石徹白のように地域の存続への危機感から生まれたものもある。
エネルギーは敷居が高いと思われているが、全く関係ない仕事をしていた人たちが事業をしているケースも多い。
映画監督の渡辺さんと出会い、映画のアドバイザーという珍しい肩書きをいただいている。渡辺監督は「おだやかな革命」の前に、消えゆく伝統野菜にスポットを当てた「よみがえりのレシピ」という映画を制作して、そこにしかない宝物のような味があるということを伝えた。その映画を機に全国で伝統作物を見直すような動きが出てきた。
食と同じように生活に欠かせないエネルギーでも同じように映画を作りたいということになり、全国を取材してる自分がアドバイザーという立場で関わり、4年間に及ぶ取材と1年間の編集作業を経て、5年がかりでようやく映画ができた。

「おだやかな革命」のテーマは「エネルギーとまちづくり・地域活性化」である。
まちづくりは色々な人や自治体が取り組んできたが、うまくいっていることは多くない。ふるさと納税も災害支援など一部の事例を除き、「物で釣る」という仕組みで税金を奪い合ってしまっていて、場合によっては地域の産物とは関係ないギフト券や家電をあげたりしている。一時的に潤う地域もあるが、誰かの税金が入らなくなっている状態になっている。自治体同士でパイを奪い合っているため、福祉にお金が回せないなど弊害も生まれてしまう。奪い合わない仕組みにしなければならない。
もう一つ誘致合戦が起きているのがカジノである。多国籍カジノ企業が進出してホテルやショッピングセンターなどの開発をして外国人観光客を集めて稼ぐという狙いであるが、「おだやかな革命」とは真逆の発想で、負けて不幸になった人のお金を福祉などに充てるというのはどうかと思う。経済効果は数千億円などと言われたりもしているが、アメリカなどではショッピングセンターができることで地域の商店街が無くなる事例もある。
そういう発想は捨てて、地域の足元に目を向けようというのが「おだやかな革命」の趣旨であり、足元に目を向けた時に、自然エネルギーだけとは限らないが、それが重要な鍵となる。
太陽光ならどこの地域でも降り注ぐ。雪の多い地域でもうまく工夫すれば十分採算が取れる。ある村で太陽光発電で収益をあげ、隣の村が真似をして太陽光発電に取り組んでも奪い合いにならない。隣の村も成功できる。収益は大したものではないが、薄く広く収益を上げるようなある程度安定的に運用できるというビジネスモデルを作っているところは多くある。それによって次のものに投資していく基盤にできる。太陽光ができないところは風力が盛んだったり、積極的に自然エネルギーを活用していくことが望ましい。

10年前の日本では、自然エネルギーはおもちゃのように扱われてきたが、今は確実に変わってきていて、2018年には出力レベルで全世界の2/3の電力が自然エネルギーになっている。
経済界は一般社会よりも進んでいて、AppleやGoogleなど名だたる企業も含めて、自然エネルギーしか使わないという宣言「RE100」をする会社が増えている。日本の企業も2018年くらいから宣言をする会社が増えてきている。グローバル市場に関わる企業であるほど、石炭火力の電気を使っている会社は相手にされなくなる。

自然エネルギーが当たり前の時代になった。
火力や原子力は安いと言われてきたが、そこには隠されているコストがあり、電力に関係ない人であったり地球の裏側の人であったり、誰かが支払ったり苦しんだりしていることがはっきりしてきた。
石炭火力であれば大気汚染や気候変動の原因になるし、原子力発電は廃棄物の処理を明確に決めていない上に廃炉の費用も未だにわからない。子孫にツケを回すだけ。目先の「安そうに見える」コストだけを見て、誰かに迷惑をかける社会を作ってきてしまった。誰かに迷惑をかけていいと思っていても、災害なども含めて自分にも跳ね返ってきている。
そういった悪循環を断ち切るために、自然エネルギーが選ばれている。

気候変動について、どんなに対策をしても避けられない。その上昇率をどこまで抑えるかという話になるが、1.5℃の上昇に抑えるためにはとてつもない努力が必要。2050年には実質ゼロにしなければならない。10年後の2030年にはマイナス40%、およそ半減しなければならない。
そのために国でも自治体でも個人でも全力でやれることをやっていく時代になっているが、日本政府は2030年に自然エネルギーによる発電量が20%程度という低い目標しか立てていない。具体的に100%になるような準備をしていかなければならない。

自然エネルギーなら何でもいいのかというと、そうでもない。
沖縄のある自治体が風車を設置したが、壊れたまま直していない。自然エネルギーは設置して20〜30年動かしてやっと市民のためになる。どう動かしていくかビジョンが必要となるが、それがないままに設置することが目的となってしまったので失敗してしまった。沖縄なのに台風対策もしっかり立てていなかった。自然エネルギーの問題というよりはプロセスの問題。
全国にある無駄な工業施設など、とりあえず大きいものを建ててランニングコストに苦しんでいるものもたくさんあるが、それと同じである。
民間企業が行う「1円でも多く稼げればいい」という考えの汚らしい太陽光発電も近所の迷惑でしかない。

地域の合意を得ながら、地域のためになる仕組みを作ることで、お金も循環させていく。
今まではエネルギーコストとして出て行くばかりだったものを取り戻せる可能性がある。

岐阜県の石徹白集落は、人口が250人(110世帯)の小さな集落で、平野さんが小水力発電は可能性があると目をつけていたが、地元の人は発電というものにピンときていなかった。
地元の変わり者のおじさんとよそ者の若者が水路で遊んでいると言われていた。地元の人の関心事は「集落の存続が危うい」、「子どもが減って学校が無くなりそう」、「廃村が近づいている」ということで、とにかく小学校を無くしたくない、子どもを増やしたい、そういう想いがあった。
コツコツ積み重ねた発電の取り組みが話題になり、水車の電力で加工品工場を再開させて、トウモロコシの加工品を作った。視察に訪れる多くの人が飲食できるカフェを開いた。アウトドアスポーツのイベントを開催して若い人が足を運ぶようになり、「石徹白は面白い」という人が増えて、移住して子どもを産むようになった。
地域の人口が10数パーセント、子どもも20人くらい増えた。
そこまできてようやくこれまで水力発電に関心がなかった地元の人たちも面白さに気づき始め、さらにそういった人たちを巻き込んで、自治会が中心となって集落の全世帯のエネルギーを賄えるもう少し大きな水力発電を作った。
小さな集落とはいえ100世帯の人が全員出資するというのは大変なことであるが、集落の存続のためには水力発電が必要だということを長い時間をかけて理解してきた。

「おだやかな革命」の事例からわかること

一つは地域の人たち自身が主役となって、地域の自立を図ることの重要性。大企業にお任せしても収益を持って行かれてしまう。地域の人だけではうまく行かないこともあるので、外の専門家も含めて、何をすれば地域のためになるだろうかと考えていくうちに、地元の人は何もないと思っていたものが、他の人には宝物に見えるということがいっぱいある。それを再発見しようとすることが大切。

生活クラブと秋田県にかほ市の風車の話は、エネルギーをきっかけに都市部と地方、生産者と消費者の新しい関係を作っていけるという事例。今までは都市部の人は買うだけ、地方の人は売るだけで顔が見えなかったのが、顔の見える関係になった。

エネルギーは目的ではなくツールでしかないが、どんな地域でも何かしらの可能性がある、役に立つツールであるため、活用していくべきものである。

一つ一つは小さな発電所であるため、そんなもので日本全体の電力を賄えるのかと言われるが、そこに意志があれば社会を変えていくことができる。
ヨーロッパでは一人の少女が始めたデモをきっかけに世界の政治を動かしている。小さなことの積み重ねが世界を変えていくことは決して珍しいことではない。
少なくとも石徹白集落や西粟倉村など小さな集落では自然エネルギーでも十分自立できるということを10年くらいかけて証明してきている。
それによって「自然エネルギーなんか使えない」と言っていた人の意識も変わってきている。

エネルギーとの関わり方を通じて「消費者」から「参加者」に変わるきっかけになれば嬉しい。今まではエネルギーと関わることはないと思っていた方も多いと思うが、「できることは結構ある」と感じて、積極的に考えて、何か小さなことでも取り組もうと思ってもらえたらありがたい。

パネリスト自己紹介&活動紹介
田中麻乃さん(白馬村議会議員)

白馬村議会議員として1期目の3年目。小学校3年生と1年生の子育て中。沖縄県那覇市出身で、雪とは無縁の亜熱帯気候であるため、日本の四季の豊かさを見ることが無いまま育った。大学卒業後は製薬会社に就職し、社会保険労務士の資格を取得して平成24年に白馬村に移住した。
町村の議員は報酬が高いわけではないため、社会保険労務士の仕事をしながら、仲間と共にベンチャー企業を立ち上げて輸入やプロモーションの会社も経営していて、トリプルワークをしている。
冬はスキー、夏はMTBと家族で白馬の山で遊ばせてもらっている。
北アルプス5市町村の20歳〜40歳の青年団体である「北アルプス青年会議所(JC)」の理事長として、5市町村のまちづくりに関わってきた。
「若い世代の政治的無関心を何とかしたい」という想いで、長野県内の子育て中の議員を仲間にして、どうしたら若い人たちが政治に参加してくれるようになるかをみんなで考えながら「パリテカフェ 」というイベントを開催している。男女比を半々にしようというフランスの法律が名前の由来であるが、日本の議会(国会議員)は9割が男性で、年配の方が多いが、そういったモノトーンな議会をカラフルにしたいというアプローチでいろいろなイベントをやっている。

白馬村の動きとして、本日のイベントを主催しているProtect Our Winters Japanは、「スノーコミュニティの情熱を、気候変動問題を解決するムーブメントに変える」というミッションで今年の2月に設立されて以来、白馬村に大きな影響を与えている。5月には気候変動&地域経済シンポジウムを開催するなど、住民を巻き込んで気候変動を考えるためのアクションを起こしている。実際、若い人たちが自分の意思を具現化して要望していくというのが今までにはなかったもので、議会としてもありがたいと思っている。
二つ目の白馬村の動きとして、”Hakuba SDGs Lab”がある。「将来にわたって美しい自然環境とコミュニティを引き継げるよう、持続可能な地域づくりを学び実践する場」として、今年の6月に設立され、いろいろな機会を住民に提供している。まずはSDGsを学び、「一人の百歩より百人の一歩が大切」ということで、高校生たちが自分たちで行動することの重要性を住民に教えてくれるきっかけにもなった。気候非常事態宣言を求める要望書を村長に提出するなど、声をあげてくれているのが素晴らしい。
もう一つ、「シャインマム」という団体が昨年の12月に設立されている。子育て中の母親は育児も家事も仕事も忙しいが、子どもたちの未来のために何かやりたいという想いで立ち上がった団体である。毎週月曜日に「エコなマルシェ」を開催して、プラスチックゴミを出さずに済むよう量り売りをするといったことを有機農家さんと協力して開催している。
一人ひとりの意識はとても大切で、POWもSDGs Labもシャインマムも、自分たちでできることを少しずつ始めていて、そういった団体が増えていくことで地域は良くなっていくと思う。

宇田川光平さん(小谷水車株式会社 代表取締役)

お蕎麦屋さんがなぜ小水力発電をやっているの?というところから話したい。
神城断層地震の際に住んでいる集落が壊滅的になり、「何かしなければならない」と思った。地球環境をどうにかしなければならないというところではなく、地域の問題を解決する一歩として小水力をやっていこうと考えスタートした。
600KW級の小水力発電を計画していて、実現すれば小谷村の全世帯に相当する1,100世帯分の電力を供給することができる。商業施設を含めると足りないが、一般家庭であれば賄えるような水車を作りたいと活動している。


白馬村でも「白馬電力」というものが立ち上がっていて、同じように「地域のために何かしたい」と共に活動している。
この地域にも「小水力をやらせてほしい」と外資(県外企業等)が入ってきているが、それでは地域のためにならない。それを阻止する意味でも力を入れて活動している。
今後の活動として、地域でエネルギーを作る人たちでまとまって、地域のエネルギーを外資から守りましょうという「北アルプス地域エネルギー組合」という組織を立ち上げようと考えている。
地域のエネルギーといっても、水力に限らず、薪ストーブなども含めて、そういった事業者が集まって知恵を出し合って地域の力を大きくしていきたい。

傘木宏夫氏(NPO地域づくり工房代表)

17年前(2002年)に「NPO地域づくり工房」を発足し、細々と取り組んできた。
川上ミニ水力発電は石徹白の人たちも2回にわたり視察に来ていて、映画の中で出てきた螺旋水車はこれを改良して作られている。
ベトナムから輸入した縦軸簡易設置型水車は、簡単に取り付けられるもので、映画には出ていないが、石徹白にも導入されている。クラシック型水車も石徹白で応用して導入されている。
いろいろな取り組みをしてきたが、それほどうまくいっているわけではなく、失敗の連続である。そういった教訓も活かしながら活動してきた。

持続可能な社会とは何かを考えた時に、地域の環境や教育、福祉といった地域の課題を市民の仕事として興していくことで、お金が回る仕組みを作ろうということを理念に17年前に発足した。「仕事おこしワークショップ」を通じて、農業用水路を使った水力発電「くるくるエコプロジェクト」として4箇所で水力発電を行い、潜在的な可能性を発信してきた。

大町市内の旅館やホテル、学校の廃食油を活用してバイオディーゼルなどにも10年ほど取り組んできたが、長野県の事情により中止せざるを得なかった。
廃業したスキー場で蕎麦と菜種を栽培してそこから菜種油を採ったり、長野県で生まれた蚕種孵化調整に使われていた”風穴小屋”を復元して、菜の花を緑肥にしたお酒や蕎麦焼酎を貯蔵したり、全国にネットワークが広がって”風穴サミット”を開催したりもしている。
そういったものが温暖化防止にも貢献していると自負している。

自然エネルギーでも無計画に進めると自然環境や地域社会を破壊する。手続きや作法を踏んで行うために自主簡易アセスを広めていて、木曽地域の太陽光発電施設の自主簡易アセスを支援している。
螺旋型の川上水力発電はたった250Wだが、24時間365日発電するため、オール電化の住宅の約半分の電気を賄うことができる。家主を訪ねると家が真っ暗で不在かと思うが、カーテンの向こうにテレビが付いていることがあって「意地でも自分が作った電気で暮らしたい」という想いを感じることができる。
自分のところで作れる身の丈にあったエネルギーで生活しようとすることが大事で、「原発は良くないから自然エネルギーに変えよう」という発想は持続可能ではないと思っている。
たとえ壊れても誰にも迷惑をかけない、ささやかではあるが美しい取り組みの苗床となるような組織として地域づくり工房の活動を続けていきたい。

パネルディスカッション

(高橋真樹さん)
気候変動の問題と地域の問題があるが、持続可能な地域を作ることが結果的に気候変動にも寄与することになるため、重要だと思う。
白馬エリアに呼んでいただいたのは2回目だが、気候変動に対して実際みなさんがどのように感じているのか聞かせていただきたい。

(田中麻乃さん)
生まれ育った沖縄では、子どもの頃の台風は風速50mくらいだったが、今は風速60mくらいになっている。台風19号のように勢力が強い台風が日本に押し寄せている。海水温の上昇によるものと言われているが、自治体の防災対策のレベルではない。自分が子どもの頃には感じられなかったものが、今は肌で感じるようになってきている。今気づいている私たちの世代が今から何かできる世代であるので、自分たちの未来のため、子どもたちに渡す社会のために、今すぐ気候変動への対策を一人ひとりがしていかなければならないと感じている。

(宇田川光平さん)
小谷村の山奥に住み始めて13年ほど経つが、当初は1シーズンに4〜5回は屋根雪を下ろしていたが、ここ数年はゼロに近くなっていて、雪の減少を危惧している。

(傘木宏夫さん)
「傘木」という名字は木崎湖畔の稲尾という集落にルーツがあり、木崎湖のほとりで生まれ育った。1970年代には毎年50cmくらいの厚い氷が湖に張っていたが、1980年代になると凍らない年が出てきて、大糸タイムスの1面を飾っていた。今は、凍ると1面のトップ記事になる。
湖の水は真冬日が2日続かないと凍らないが、最近は続かない。確実に温暖化が進行していると実感している。

(高橋真樹さん)
そういった状況に対して、今後どんなことに取り組んだらいいのか。どんな可能性があると思うか。

(田中麻乃さん)
白馬村は観光業に携わっている方が多く、雪が降らなければ資金繰りが苦しくなるということで、商工会や金融団と行政等で雪が降らないために回らない経済をどうするかということを議論する「寡雪対策」に取り組んでいるが、毎年行われるようになり「臨時的な対策」ではなくなってきている。
雪が少ない状況が今後も続いていくという中で、今後どういった形で冬を作っていくのか、考え方を変えていかなければならないと感じている。

(宇田川光平さん)
エネルギーという視点から話をすると、白馬エリアにおいてこれからのエネルギーといえば薪ボイラーなどが考えられる。薪ボイラーを使うために山から木を切り出してくることを考えると、補助金などを活用しなければ採算が取れない。山岳リゾートであることを活かして、その費用をリフト代金等に上乗せして徴収することで、山から木を切ってくるような形を取らないとエネルギーが生まれてこない。ただ「木を切ってくればいい」というだけではなく、何らかのお金が入ってこないと事業化できない。薪ボイラーなどを進めた方がいいと思うが、林業を担っている人たちと連携して、山岳リゾートの魅力を高めていきたい。商業施設などができるのも良いことであるが、足元の泥臭いところの魅力、エネルギー問題の解決を通じて、自然環境に通じる部分を底上げしていくと、山岳リゾートとしての価値を上げられるのではないか。

(高橋真樹さん)
森林が荒れているから木質バイオマスをやろうという話になるが、太陽光や風力と違って燃料が必要になるため、どうやって採算を合わせて燃料を確保していくかしっかり計画しないとビジネスが成り立たない。西粟倉村のように木質バイオマスだけではなく木の産業全体を伸ばしていき、そこで使えないものを燃料として利用する形で長期的な計画に基づいて進めないと、バイオマスボイラーだけを導入しても上手くいかないことが多い。

(傘木宏夫さん)
今日の会場はスキー場をお借りしているが、スキー場という業態は自然破壊を伴っており、地球温暖化にもかなり貢献しているように感じている。これからの社会において、これまでと同様のスキー場経営をするのであれば退場してもらわないといけない。エネルギー問題も含めて温暖化抑止や自然環境との共生に対してどういった姿勢や行動を見せられるのか、抜本的に改善してもらわなければならない。
具体的にいうと、私たちが持っているバイオディーゼルのノウハウを活用して、ここで使う経由の2割でいいので自然由来のものを混ぜるとか、そういったことだけでも変わってくる部分があると思うので提案したい。

(高橋真樹さん)
おだやかな革命を見て、「これは使える」と思ったことがあれば聞かせてほしい。

(田中麻乃さん)
小水力発電には可能性を感じていて、実際に白馬でも運用されている。自治体が何かをするのではなく、住民が自らの生活を考え、住民の力で取り組んでいくのがこれからの社会は大切だと思う。

(宇田川光平さん)
白馬村は小水力発電の候補地がたくさんあり、すでに計画されているところもある。この会場に来る道の脇でも、50KW=80世帯分くらいの電気を作れると思う。それくらいのポテンシャルがそこら中にある。もっと自然エネルギーに取り組んで地域に活かせればと思う。

(高橋真樹さん)
そうして作った電気をスキー場で使えれば素晴らしいと思う。

(傘木宏夫さん)
水が豊富な地域であるため、小水力のクリーンなエネルギーから水素を作り、燃料電池に固定して民宿やホテルなどにも提供していくような事業も可能性があるのではないか。
映画でいいなぁと思うのは、ライフスタイルを変えていく姿勢が見られるところで、そういうものが伝わるような地域になってほしい。
観光とは国の光を観るという意味で、里を巡って地域の人たちが光り輝いている様子を見て、癒されたり勇気付けられて、次の旅に出るということが語源と言われている。サステイナブル・ツーリズムという言葉もあるが、白馬村を訪れて新しい生き方・住まい方を見せられて、何か触発されて帰っていくような地域になればいいと感じた。

(高橋真樹さん)
白馬村内でも具体的な動きがあるということなので、今日のイベントの主催者である坪井さんからも一言いただきたい。

(坪井夏希さん)
高橋さんには10月にも白馬に来ていただき、雪国における屋根ソーラー発電に関する勉強会を開催したが、その際に五竜のペンション経営者が影響を受けて、何かできることはないか、むしろできることを全部やろうということで、マイクロ小水力や薪ボイラー、冷水によるクーラーなど、一歩踏み出し始めている。

(高橋真樹さん)
そういう方が現れると、イベントをやった甲斐があると感じる。話を聞くだけで行動しない1,000人に来てもらうよりも、行動してもらう10人に来てもらった方が力になると思っている。今日来ていただいた皆さんにも、ちょっとずつでも行動してもらえたら嬉しい。
今日は既に行動を起こしている人として、白馬高校の3人が来てくれている。村長に気候非常事態宣言を求めたということで、なぜそういうことをしようと思ったのか聞かせてほしい。

(手塚慧介・宮坂雛乃・金子奈緒)
6月に行われたHakuba SDGs Labに参加して、地球で起きている気候変動の問題を中心にSDGsについて学んだ。
スウェーデンのグレタさんが始めた活動をきっかけに9月20日に世界中で「グローバル気候マーチ」が開催されることになり、日本では東京や神戸など大都市でしか開催されないということだったので、白馬でもやってみようと思った。白馬はウィンタースポーツを主とした観光資源が村の大切な財産であり、気候変動による影響を受けやすい地域であるため、気候変動の対策を講じることは重要だと考えた。行政からアピールすることが大切だと思い、村長に気候非常事態宣言を求めた。
マーチの次のイベントとして、気候変動により生活に支障が出ている「気候難民」を支援したいと思い、Hakuba×ActionでHactionというチャリティーバザーを開催し、利益を募金するというイベントを開催した。キッチンカーやショップにも出店してもらい、利益の1割を寄付してもらうなどして、14万円以上が集まった。ご協力いただいた皆さんに感謝したい。
今日参加してくれている皆さんも、気候変動やSDGsに興味がある人だと思うが、話を聞くだけでは意味がなく、行動を起こすことが重要。今後もイベントを開催していくので、ぜひ参加してほしい。
台風19号の被害に対する募金も行なっている。台風の強大化は温暖化によるものだと言われており、気候変動による災害と言える。ぜひ協力をお願いしたい。

(高橋真樹さん)
高校生の皆さんの活躍はすごいと思うが、「若いのに頑張っているね。高校生頑張ってね」と言っていてはダメで、大人も一緒に頑張らなければならない。一緒に未来を考えながら、何か少しでもそれぞれが行動を起こすようにしてほしい。それが持続可能な白馬への道だと思う。

会場から質問・感想
小水力発電をやろうと思い、調査までは行った。飯田市のメーカーの方に来てもらい、中山間地の河川で200KW規模のものを建設しようとしたが、自分が住んでいる集落ではないということもあるかもしれないが、地域の住民に説明したところ理解を得られず賛成派と反対派に分かれて地域を分断してしまった。どうやって地域の理解を得ていけばいいか。

(傘木宏夫さん)
私たちも稼働させたがトラブルになって原状回復しなければならなくなった発電所がある。土地改の理事長から「水利権は豊臣の時代から農民に与えられた唯一の公的権力だということを言われた。そういった歴史に対する思いや日々それを管理しているといったプライドなどを尊重しないと会話は成り立たないと感じた。石徹白でやられているように小さなモデルからスタートして可能性を広げていく方がいいのではないかと思う。

(宇田川光平さん)
難しい問題であるが、ケースバイケースかと思う。小谷村でも地域によって賛否が分かれる。時間をかけて進めるしかないかと思うが、どこかで一つ成功させれば他の地域でもやりやすくなると思う。1箇所に固執せず、複数箇所で進めていくことも大切ではないか。

(高橋真樹さん)
石徹白でもみんなが万々歳ではなく、狭い地域だからこそ根深い対立もあったりする。地域の自治会長が「地域の存続のためにできることはこれだ」とみんなを熱心に口説いて回って、地域の危機をみんなで感じていることもあり、対立関係にあったような人も含めて判を押すに至ったが、そこには関係づくりも含めて地道な努力があった。

昨年まで白馬高校に通い、今は信州大学に通っている。パネリストの方々の活動は伺うことができたが、学生としてもできることは何かあるのか。

(田中麻乃さん)
できることはたくさんあると思う。気候変動のことを漠然と考えても難しいが、勉強会に参加したりプラスチックゴミを減らしたり、小さなことをまず始めることが大切ではないか。一人の百歩よりも百人の一歩が大事。

(宇田川光平さん)
話がずれるかもしれないが、お店で出していた生ゴミを鶏を飼っている人のところに持って行っていくことで、生ゴミを0にした。割り箸は金沢の間伐材を使い、利用後は焚き付けに使っている。そういった身近なことから始めてほしい。

(傘木宏夫さん)
NPO発足の際に「仕事おこしワークショップ」を半年間で6回開催し、市民実験の企画書を作ることがゴールだった。学生も1年間くらいかけて自分たちでやる「学生実験(社会実験)」の企画を作って、それを提起してできるか試してみるということをやってみても良いのではないか。実験は面白い。

(高橋真樹さん)
いろんなことができると思うが、まずは周りの人に呼びかけて「何かやろう」と言ってみることも大事。正面から気候変動と言っても通じない人もいて、関係ないと言われても、災害が激化していることなど直接被害を受けた人であれば引っかかる部分があったり、いろいろなポイントがある。
今日の会場は寒いが、なぜ寒いかというとガラス張りで断熱されていないため、暖房をつけても暖かい空気が上に上がり冷たい空気が入ってきて足元が寒い、という状態になっている。窓を断熱性の高いものにするなどすれば、暖房エネルギーも消費量が減る。大きい建物を変えるのは大変だが、小さい自分の部屋を変えるというのも良いと思う。この後もみんなと話し合ってもらえればと思う。

白馬高校の教室はストーブを焚いてもとても寒い。壁がコンクリートで断熱性がないからだと思うが、学校に大規模な工事をお願いしても無理だと思う。簡単にできる断熱はあるか。

(高橋真樹さん)
まずは窓が重要になる。断熱されていない建物にエアコンを付けるとなると巨大な出力のものが必要で、ランニングコストもかかるため、断熱もセットで考えなければならない。それがないがしろにされているのは、気候変動的にも良くないことである。
岡山県の公立小学校では、予算がない中で担当の職員が商店街や企業を回って40万円を集めて、教室1部屋をDIYで断熱しようというプロジェクトを立ち上げた。街の建具屋さんや教育委員会の職員などが面白がって加わって、1つの教室を断熱してみて、夏と冬の変化を調べて、うまくいったら他の教室もやろうということになっている。自治体はお金を出さずに手作りで学校でもできてしまう。予算を取ってしっかりやるのも一つの方法であるし、お金がなくても自分たちで何ができるかということを考えてやる例もある。
高校生が提案してすぐ動く話ではないかもしれないが、そういった実例があるということを紹介できるし、学校にとってもプラスになる。寒さや暑さは学習効果にも影響を及ぼす。学力向上のためなど、必要なデータを集めて挑戦してほしい。
再エネだけでなく省エネもセットで取り組むことが大切。

最後に一言ずつ、今日からできることなど何でも良いのでお話しいただきたい。

(田中麻乃さん)
白馬の豊かな水は雪融けがあるから。雪がなくなると小水力も回らなくなるかもしれない。水を大事にするアクションを始めている。
洗剤を使わずに洗濯する方法として、マグネシウムを使うものがある。水にも優しく汚れも落ちる。皆さんも小さな取り組みから始めてほしい。

(宇田川光平さん)
「世界の気候変動」というと手がつかないので、なるべく自分の立っている周りから手をつけていけば良いのではないか。

(傘木宏夫さん)
白馬という名前はブランド力が高い。それを活かしてブランド力のあるエネルギーを作り出してほしい。潰れてしまった小さなスキー場をどうするか、どんな財産になるか考えたい。

(高橋真樹さん)
講座をきっかけに動き出す人が出てきたという話があったが、2年前にエネルギーを考えるイベントを開催した時に来てくれた知人がたまたま家づくりをしていたタイミングで、そのイベントをきっかけに、参加者であった木製サッシ屋さんの製品を使ったり断熱性能の高い家づくりに変えた。昨日泊まったが、朝も全く寒くなく快適だし、エネルギーも使わないし、見栄えもかっこよく最高である。お金持ちだけではなく、普通の人でもそういった選択肢があるということを多くの人に知ってほしいし、みんなで一緒に考えたい。知ったら行動につなげてもらえると嬉しい。